その人の心に寄り添う作品を

Interview
山田 一成

photo by Kazunari Yamada

子供の頃から身近に触れて遊んでいた昆虫たち、庭にやってくる小鳥など、さまざまないきものが創作に大きな影響を与えているという山田さん。ご自身の作品や制作への思い、お気に入りの「Arts&Crafts」についてうかがいました。

― 作家として活動を始めたきっかけを教えてください。

デザイン事務所から独立した後、グラフィックデザインの仕事の他にもイラストや絵の仕事をいただくようになりました。ありがたいことに、そのイラストや絵をグループ展などで発表する機会をいただくようになり、制作を進める過程で、このイラストをワイヤーで立体表現すると面白いのでは、と思いついたことが始まりです。その後、展示会で絵やイラストと共に、ワイヤーアートとして作品を発表したことが今につながっています。

僕自身、野生動物が大好きで、「イラストをワイヤーアートにすること」から次第に「いきものを表現すること」に夢中になっていき、今の作風になりました。

― 作家として最初に制作したアイテム(はじめて販売したアイテム)を教えてください。

ワイヤーアートの作品で初めて制作したのは『ペリカン』だったと思います。今の作風とは違い、とても抽象的な『ペリカン』でした。

 

― 制作するうえでのインスピレーション、大切にしていることはありますか?

インスピレーションは散歩です。山でも海でも近所でも庭でも。ほんのわずかなの時間でも、外へ出て頭を切り替えることです。
愛犬のおかげで散歩に連れ出してもらっているという方が正解かもしれませんが、ワイヤーアートの制作も、グラフィックデザインの仕事も、どうしても長時間同じ姿勢での作業になってしまうので、身体が固まり発想も硬くなりがちですが、外へ出ると、そこらじゅうに自然の造形美が溢れていることに気付かされます。

石、貝殻、枝、木の実、葉っぱ、虫の羽。自然の作り出した線や形、色・・・
地球の欠片たちの美しさにいつもハッとさせられ、気づくと拾い上げ、持ち帰ってしまいます。

これはもしかすると癖のようなもので、カエルやザリガニを見つけるとポケットに入れて持ち帰り、母親に怒られていた子供の頃と何も変わっていないのかもしれません(笑)

自然の作り出すフォルムにはとても敵いませんが、よく観察して想像し、「自然そのものや生き物たちの美しさや愛おしさを共有したい」と思っています。

― 制作する上で大変なこと、苦労していることはありますか?

老眼・・・それに尽きます(笑)
あとは一点一点全ての工程が手作業のために、作るのに時間がかかり、お待たせしてしまうことです。その点に関してはいつも申し訳なく、心苦しい気持ちです。

― もの作りをされていて「楽しい」「嬉しい」と思う瞬間はどんな時ですか?

失敗もよくしますが、制作自体がとても楽しいです。ワイヤーアート制作を開始した当初は直線的で複雑な線の表現だったものが、年々「より少ない線」での表現に変わってきました。曲線を描けるようになったことで少し世界が広がったように感じていて、日々の試行錯誤がとても楽しいです。
嬉しい瞬間は、作品を手にとってくださるお客様から「作品の物語」を聞かせていただいた時です。

― ご自身の作品をどう楽しんで欲しいですか?

前の質問で「作品の物語」と表現しましたが、展示会やメール・SNSなどで、お客様から作品に関する様々なエピソードを聞かせていただく機会があります。誰もが心の中に大切にしまっている、思い出や風景、言葉や想い。普段は忘れていても、作品を通してふと思い出し、その心に寄り添えるものになれば、とても嬉しいです。

とある展示会で、子供たちが、「このクマ、◯◯って言ってるね」というような会話が始まったときに、なんだかとても癒され、嬉しくなったことを覚えています。作品を通して温かい気持ちをたくさんもらっているのは、僕の方かもしれませんね。

それから、ワイヤーアートは影も楽しみのひとつです。窓からさす光や風で動く木漏れ日、部屋の灯によって、影が意図しない世界を作り出すことがあるので、意識して影の出る場所に置いてみるのもおすすめです。そこからまた新しい物語が始まると嬉しいです。


わたしのArts&Crafts

以前、展示会の際にカリグラファーの米谷さんに作っていただいたオブジェです。カリグラフィーを施してもらった石のようなオブジェで、人の手で作られたものですが、自然が作り出したような佇まいで、美しさや年月、存在感を感じて、とても気に入っています。

山田 一成 (やまだ かずなり)|ワイヤーアーティスト , グラフィックデザイナー ​, アートディレクター

福岡県在住。
デザイン事務所から独立後、独学でワイヤーアートの制作をはじめ、動物や昆虫をモチーフにシンプルな曲線で作るワイヤーアートを探求。ストーリーを感じることのできる世界観を大切に、日々制作中。

Instagram|@kazunari_yamada

2022.03.02

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