気心知れた友人を、あそびに誘うように使ってもらえたら
Interview
池谷 三奈美
電気窯を使うキルンワークと呼ばれる技法を用いて、板ガラスを自作の石膏型に沿わせて成形し、さまざまな作品を生み出す池谷三奈美さん。ご自身の作品や制作への思い、お気に入りの「Arts&Crafts」についてうかがいました。
― アーティストとして活動を始めたきっかけを教えてください。
小さい頃から今もなおですが、ミニチュアや雑貨の収集が好きで、それから漠然とプロダクトやインテリアを勉強したく美大へ進学しました。そこで、同科にガラス専攻というのがあり、それまで未知だった「素材としてのガラス」にとても魅力を感じて、専攻しはじめたのが大きなきっかけです。
― 制作するうえでのインスピレーション、大切にしていることはありますか?
「ガラスでこんなものがあったらいいのにな」とか、自分が欲しいと思うものを考えて制作することがほとんどです。あとは、とにかく道具が好きで、古いものから新しくデザインされたものまでよく手にとるので、そういうものからもインスピレーションをもらっていると思います。
― 制作するうえで大変なこと、苦労していることはありますか?
アイディアのまとめから、実際に形にして自分のプロダクトとして世に出していくまでを、ひとつひとつ丁寧にこなしていくことです。それは当たり前のことなのですが、使うものを主に作っていて、それは他人の生活に関わるものだから、出来栄えやデザインの成熟度は大事ですし。手にとってくれる方が増えてきたことを少し感じ始めてからは、より慎重に、自分との協議がたくさん行われます。
― 制作をされていて「楽しい」「嬉しい」と思う瞬間はどんな時ですか?
制作中は基本的に楽しいし、それが毎日続けられて嬉しいことこの上ないです。
「制作の幅が広がればいいな」と半分思いながら始めたお茶(茶道)のお稽古が、今とても楽しくて、行く度に得る知識や感性が、自分の中を一度とおって、ある日の制作にじんわり浮き出てきたら嬉しいだろうな、と思っています。
― 今回の個展のテーマである、カンタについて。カンタのどんな部分に惹かれますか?
肌ざわり… ですね。くりかえし使われた布ってどうしてあんなに心地よいんでしょう。枕やふとんのカバーを思い出します。
― 制作のインスピレーションになりそうなのは、どんな部分ですか?
布や糸の斬新な色の組み合わせ、です。様々な色柄のサリーや古布のきれはしを継いで一枚にしているものもあって、制作で出てしまう色ガラスの端材も同じように継いでみたいと、早速影響をうけています。
― ご自身の作品をどう楽しんで欲しいですか?
作品は小さなものが多いですが、ひとつでもガラスの魅力を私なりにつめこんでいるので、それが伝わるといいなと思います。
ガラスといえば吹きガラスで、透きとおって緊張感があって、なんとなく高級なイメージがあるかなと思うのですが、緊張感のない手軽さが私のキルンワークの特徴です。毎回、気心知れた友人をあそびに誘うような感じで、食事におやつに、たくさん使ってもらえたら嬉しいです。
わたしのArts&Crafts
エリック・ホグランのガラスです。
多くのものが、要素はシンプルでありながらも、ガラスの楽しさがたっぷりつまっている。ホグランの、そういうガラスの魅力の伝え方がとても好きで、年に一度伺う展示で、ようやく本物を手にとって少しずつ集めはじめました。
ただ、そこに置いておくだけでもいいし生活に溶け込ませて使うのもいい。「なんかいいな」と思ってしまうものを作り出すことに憧れています。
池谷 三奈美|ガラス作家
東京都出身
武蔵野美術大学 ガラスコース卒業
電気窯を使うキルンワークと呼ばれる技法で、板ガラスを自作の石膏型に沿わせて成形し、さまざまな作品を制作
Instagram|@minamiikeya
2022.05.06