08「木組みの家」

ドイツらしい風景、といったら皆さんはどのようなものを思い浮かべますか?

カラフルな家々が並ぶロマンチック街道や、荘厳なお城を思い描く方も多いかもしれません。そして、それらと並んで挙げられるのが「木組みの家」ではないでしょうか。

まるでおとぎ話の世界から抜け出してきたような、中世の趣を今に伝える木組みの家々。街並みとしてまとまって保存されている場所が、北から南までドイツ各地に点在し、「木組みの家街道」という観光ルートがあるほどです。

この建築様式は、ドイツだけでなく、フランスのアルザス地方やイギリスなどヨーロッパ各地で見られるのですが、森、童話、魔女などのイメージと結びついて、とりわけドイツっぽい、と思われるのかもしれません。

木組みの家(木骨造の家)は、ドイツ語でFachwerkhaus(ファッハヴェルクハウス)と言います。ごく簡単に説明すると、木材で柱や梁などの枠組みを作り、その隙間を土や石で埋めて壁を作る建築方法です。

特徴的なのは、木のフレーム構造が外から見えるようになっている点。縦横斜めに走る木のラインが壁面に鮮やかなコントラストを生み出し、インパクトのある独特の外観を作り出しています。

木組みの家は中世に発展し、15〜17世紀ごろに盛んに作られました。18世紀になると、近代的な建築技術や素材が都市部を中心に普及し、木組みの家の建設は次第に減少していきましたが、変化の少ない田舎では引き続き使われ続け、現在にその姿を残しています。

ひと口に木組みの家と言っても、時代や地域によっていろいろな特色があります。木の組み方を模様のように工夫したものや、彫刻やペイントが施されたものなど、一軒一軒がとても個性的。それが広場や路地に何軒も連なった様子には、まるで異世界に迷い込んだような感覚を覚えます。

長い年月を経て、床や壁や屋根が傾いてしまった家もよく見かけます。いったい中はどうなっているんだろうと不思議に思うこともしばしば。そんないびつな佇まいもハタ目には面白いですが、実際に住むのは苦労も多そうです。


ここからはドイツ各地で見た、木組みの街並みをご紹介します。

ドイツの真ん中らへんに位置するヴェルニゲローデ。魔女伝説で有名なブロッケン山の麓の街です。

手前左の家はこの街で一番古い木組みの家で1546年築だそう。築480年ということになりますが、きれいに修繕されています。どの程度オリジナルの部分が残っているのでしょうか?

ちなみにドイツには、歴史的な建物の修復・保存に関する専門技術を学んだ塗装職人や左官職人がいます。

こちらはヴェルニゲローデの市庁舎。夕暮れどきに旧市街を散歩して広場でこの姿に出会った時、本当にワクワクしました。

木組みは住宅だけでなく、市庁舎や城塞の一部など大きな建物にも使われます。

街の中心にある市庁舎や宿屋、有力者の家などはファサードが凝っていて、ディテールを観察するのも面白いです。魔除けなのか、派手な色彩を使っていたり、ふざけたような彫刻があったり。

左の写真は耳付き(!?)のフードを被った愚者の像。
右の写真では、聖人の像がおどけた顔と一緒に並んでいます。聖と俗といった感じ。

こちらの装飾的なバロック様式の建物は、昔の宿屋。1777年にゲーテが滞在したという標識がありました。窓の下のX状の模様も全て壁に埋め込まれた木です。

限界に挑戦?バッテンで埋め尽くされた壁。

葡萄畑が広がる、ドイツ西部のモーゼル渓谷に位置するベルンカステル・クース。狭い路地にひしめくように建てられた木組みの家に圧倒されます。

左の写真の家、1階部分がとっても狭いのが分かりますか?

世界遺産の町、バイエルン州のバンベルク。川の中洲と橋の上に建てられた旧市庁舎は石造りですが、その先端に木組みの建物が増設されています。

ベルギー国境に近いモンシャウの、川沿いに迫り出すように建てられた家々。

谷間や城壁に囲まれた街など、狭い場所をできるだけ有効活用して建てられる点が、木組みの家が発展した理由の一つなのかなと思います。


木組みの家は、単なる建築様式を超えて、地域の民俗的なアイデンティティーを象徴する存在となりました。

景観保全が進められる一方で、外観だけを保存しても中身が伴わないことも多く、空き家や歴史的な外観に似合わないテナントなどを見ると、一抹の寂しさを感じます。

可愛くて奇妙なこのドイツの風景が、いつまでも残って欲しいなと切に願います。

 

参考:ドイツ木組みの家街道ホームページ
https://www.deutsche-fachwerkstrasse.de/

ドイツ在住スタッフ・チノ

2005年よりドイツのミュンヘンに在住。リモートワークでWEBショップの制作を担当しています。旅行、山歩き、甘いものが好き。
読みもの一覧に戻る