多様なインプットで独自のアウトプットを続ける。
これまでも、これからも。
Interview
竹村 良訓
重なる色彩、自由な形状。一度目にしたら忘れられない、印象深い作品を生み出す陶芸家 竹村良訓さん。彼の色彩豊かで伸びやかな作品は、どのようにして生まれるのでしょうか。
千葉県松戸市にある工房を訪ねて、ご自身の作品や作陶への思い、お気に入りの「Arts&Crafts」についてうかがいました。
工務店だった実家の作業場が、現在はアトリエ 兼 陶芸教室に
「僕の人生はグラデーションです」
― 作家として活動を始めたきっかけを教えてください。
そもそも陶芸を始めたのは、通っていた美大の陶芸サークルに入ったのがきっかけでした。先生は特にいなくて、遊びながら自分の好きなものを自由に作っていた感じで。大学を出て、そのあと大学院まで行ったんですが、卒業しても特定の仕事には就かずに、いろんなことをやってました。ちょうどその頃に開催した個展が、作家活動の始まりといえば始まりなのかな。
― その頃から、ずっと作家一本ですか?
いえいえ。僕の人生は、なんだかグラデーションで(笑)。いつから始まって、いつからこうなったっていうのがないんです。今のように作家活動がメインになったのは、10年くらい前かな。その前は、作家活動をやりながら大学院で学んだ文化財修復もやってたし、大工さんもやってたし。
― 作家活動に、文化財修復に、大工さんまで!?
実家が工務店だったので(笑)。何か新しいことを始める時は、片足ずつ入って、片足ずつ抜くみたいな。そういう複数のことを同時平行でやることが結構多いですね、人生で。今も、作家活動をやりながら陶芸教室もやってるし。
― 違う職種を同時進行でやるというのは、負担にならないのですか?
作家活動も大工も文化財修復も教室も、僕の中では繋がっていて、違う面というわけではないんです。今は作家と教室を並行してやっていて、実際には「作ること」と「教えること」は違うけど、両者の間で摩擦が起きてない。大工さんをやってる時も、ふいに創作のイメージが沸いたり、「このスキルは他の何かに転用できるな」とか。万事において、そんな感じが多いんです。だから、いろんな作品を作れる幅があるのかな。
日常生活の全てがインスピレーション
― 制作するうえでのインスピレーション、大切にしていることはありますか?
日常生活の全てがインスピレーションです。散歩しててもあるし。
― 例えば、どんな?
見たものの色の合わせとか。一つ色があったら、絶対その横にも色がありますよね。それだけでも、色の組み合わせの参考になります。
アトリエには釉薬のサンプルピースが多数
― 普通の人が気に留めないことも、竹村さんにとってはインスピレーションなんですね。
そういうのがもう、癖になっていて(笑)。目に入ってくる物の色の関係性を考えるのが。例えば、床ひとつにしてもそうだし。色合いとか、相性、組み合わせ・・・。そういうのが、自分の創作と繋がっている部分は大きいと思います。
― 制作する上で、大変なこと、苦労していることはありますか?
ないですね(笑)。基本的には、自分の好きなことしかやってないので。
― とは言っても、生みの苦しみのようなものはないんでしょうか?
僕は「新しいものを作る」ということが全然苦じゃないんです。無理矢理作っているわけでもないし。バリエーションをつけたり、次から次に作っていくというのも、どちらかというと得意なことなので。得意なことをやっているから、あんまり苦労してないのかな。
― じゃあ、「これと同じものを作ってください」と言われるのは?
それは大変です!というか、できないです(笑)。新しいものを作るのは得意ですけど、同じものを再現することは苦手だし、やってないので。もしそういう状況になったら、確実に苦痛に感じるでしょうね。
色と形、一つとして同じものがないのが竹村さんの作品の特徴
表現方法の模索は、これからも続く。
― 初めて制作したアイテムは?
15年くらい前に作った陶器の茶碗です。今の作風とは全く違っていて、渋い単色でした。桃山時代の茶道具、李朝とか楽とか、そういうものに影響を受けて作ったもので、今の電気窯の前の灯油窯の時なので、見た目は今のものと全然違います。
― 渋めの単色というのは、今の竹村さんからは想像もつかないですね。
当時は、そういうのを研究するのにハマってたんです。今のように色彩豊かなものを作り出したのは、10年くらい前から。でも結局、やってることは同じなんですけどね。形を作って、その上に釉薬をのせて、自分のイメージに寄せていくっていう作業。出来上がるもののテイストが違うだけで、作業としては同じことをやってるんです、ずっと。
― 渋めのテイストのものから、色彩豊かな作風に変わったきっかけは?
ヨーロッパのアンティークやヴィンテージ、作家だとルーシー・リーやベルント・フリーベリの作品を見たのがきっかけです。「こういうの自分にも作れるのかな?」と思って始めたのが2014年くらいで、そこからは、磁器で釉薬を使ったカラフルなものが中心になりました。
― で、最近は練り込みも制作されてますね。
そう、去年から練り込みを始めました。しかも、タタラや手捻りで。今までロクロだったから、技法としても新しいことをやってます。
手前が「練り込み・手捻り」で作られたマグ。いびつな形とマーブルのような模様が特徴。
― 新しいことへのチャレンジは楽しそうですね。
練り込みは、僕にとっては目下研究中というか、まだまだ掘り下げられる技法なので、制作していても楽しいですね。渋い単色の茶道具から、明るい色の釉薬の表現に移って7〜8年くらい。そして去年からは、釉薬に加えて、練り込みでも色の表現の研究を始めました。きっとこれからも、その時々で、新しい表現方法を模索していくんだろうな。
「とにかく自由に楽しんで欲しい」
― ご自身の作品をどう楽しんで欲しいですか?
とにかく自由に楽しんで欲しいです。僕は「これは何用」とか「こう使って欲しい」というのが全くないので。手にしてくれた人が、好きに使って欲しいですね。「ただ置いて眺める」という使い方もあると思うし。部屋に飾っているだけでも、僕にとっては「使っている」のと同じ意味です。
― どんな用途であれ、その人の生活に馴染んでいればOK、ということでしょうか?
そうですね。僕の作品は、サイズ的にもアイテム的にも生活の中に馴染めるものを作っているので、そばに置いて、愛着を持ってもらえると嬉しいです。
わたしのArts&Crafts
友人の いぬい かずとさんの猫の絵です。
7〜8年前に本人から購入して、ずっとこの場所に飾ってます。なんか、面白いんですよね、顔が(笑)。しかも、作家としての独自性もあって。うまい下手ではなくて、味がある。僕の好きなものって、完成されすぎてない、少し「ゆるい」ものが多いです。「ゆるさ」の中にも、捨てがたい「何か」があるんですよね。
この2つは本来別の絵なんですけど、同じフレームに入れて飾ってます。なんとなく、この方が猫たちも居心地がいいかなって(笑)。
工房に来る人は、みんな褒めてくれるんですよ。「いいね」って。この青い色も、僕の釉薬の色になんとなく似てますよね。
竹村 良訓 (たけむら よしのり)| 陶芸家
1980年千葉県生まれ。
武蔵野美術大学卒業後、東京芸術大学大学院にて文化財修復を修める。古陶器の研究・復元制作を行いながら、漆芸技法の応用による陶磁器・漆器修復にも携わった。
現在は陶芸作家としての活動と並行して、2008年に開設した陶芸教室 陶房『橙』にて指導も行う。
Instagram|@takemurayoshinori
photo & movie/satoshi shirahama
2022.01.19